行方不明の従業員を解雇するには?

従業員を何人も雇っていると、なかには突然会社に来なくなってしまう従業員というのが出てくるようです。
その後、携帯電話に電話をしてもでない、履歴書にある住所を訪ねても住んでいる気配がない、そんなご相談もあります。
そんな場合、どうすればよいのでしょうか?

即日解雇扱いにしても事実上は問題が生じない場合が多いでしょうが、法律上は、解雇する旨の通知を従業員に対して行わなければなりません。
この解雇通知は、民法97条1項で、「通知が相手方に到達したときからその効力を生ずる」とあるので、相手に届かないといけません。
従業員が行方不明の場合には、相手のところに届くはずがありませんから、解雇できなくなります。

このような場合の対策として以下のようなことが考えられます。

1 予防として職務規程などに記載する

行方不明の従業員を法律上有効に解雇するのは意外と大変なので、あらかじめ職務規程や個別の労働契約で、無断欠勤の場合に当然に退職となる旨の規定を設けるのが最も有効です。

この場合、何日無断欠勤した場合に適用するかが問題となります。
法律上明確な定めはありませんが、当然退職の規定を会社からの解雇と考えると、解雇予告手当が30日分とされていること(労働基準法20条1項)、従業員からの退職の意思表示があったとみなした場合、最長で46日前に退職の申出をしなければならないこと(月給制の場合(民法627条2項))との関係で、50日くらいにしておいた方が安全でしょう。

2 公示による意思表示

相手にどうしても連絡が取れない場合の規定が民法に定められているので、従業員が行方不明の場合は、その方法をとることができます。
それが公示です。
具体的には、民法98条1項が、「表意者が・・・その所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる」と規定しています。
公示の方法とは、裁判所の掲示板に掲示し、掲示していることを官報に掲載することです(民法98条2項)。
そして、官報に掲載されて2週間で「相手方に到達したこととみな」されます(民法98条3項)。

この方法のマイナス面は、裁判所に掲示され、官報にも掲載されることから、関連会社に「従業員が失踪するような会社」と見られてしまう可能性があることです。
また、公示による意思表示は、どうしても本人と連絡が取れないときの最後の手段なので、「所在を知らないことについて過失があったときは、到達の効力が生じない」(民法98条3項ただし書き)とされています。
これを避けるために、従業員への電話の記録を残したり、手紙を送っても返送されることを記録に残したり、住居に住んでいる様子がないことを調査する必要があります。

3 黙示の意思表示

もう一つの方法として、会社を無断欠勤していることを、従業員側から退職するとの意思表示があったと考える方法です。

この点について判断したものとして、名古屋地方裁判所昭和63年3月4日判決というものがあります。
この判決では、「労働者が任意退職するに当たっては、必ずしも退職届の提出等明示の退職の意思表示を必要とするものではなく、退職の意思をもって職務を完全に放棄し相当期間継続して出社しなくなるなど退職の意思が客観的に明らかになるような事実によって退職の黙示の意思表示の認定をすることは妨げられないものというべきである」とされています。

もっとも、どのような場合に「退職の意思が客観的に明らか」といえるかは、最終的には様々な事情を考慮して裁判所が判断します。
おそらく、行方不明の従業員が帰ってきて、不当解雇だということはないと思いますが、この方法は、明確な基準がない点でちょっと勇気がいります。