残業代請求について労働審判・裁判になったときの源泉徴収

労働審判や裁判で未払いの残業代があるとの判断がされた場合、裁判所から、○○円支払えと具体的な金額の支払が命じられます。

この場合、会社は、裁判所が命じた金額をすべて払わなければならないのでしょうか?
それとも源泉徴収後の金額を支払えば良いのでしょうか?

結論からいうと、会社は、裁判所の認定額から源泉徴収をしてよく、源泉徴収後の金額を払えば良いことになります。

なぜなら、裁判所は所得税の支払いについては何ら判断していないため、会社の源泉徴収義務が無くならないからです。

では、裁判所の判断が出たにもかかわらず、会社が任意に未払い残業代を支払わなかったため、従業員が強制執行をした場合はどうでしょうか?

この点については、最高裁判所平成23年3月22日判決というものがあります。

同判例によると、強制執行可能な金額は、判決で定められた金額になるので、会社は判決金額全額を支払う義務を負い、源泉徴収分を支払わないという主張はできません

他方で、会社の源泉徴収義務が無くなるわけではないので、会社は本来であれば源泉徴収すべき金額について納税する義務を負います。

つまり、源泉徴収できた分を会社の負担で支払わなければならなくなります

同判決の補足意見では、上記の結論を避けるためには、会社は従業員に強制執行を申立てられた場合は、執行異議という手続きで、「源泉徴収分は請求権がないはずだ」と主張すればよいとしています。

また、判決では明確に述べていませんが、理論的には、本来従業員が負担すべき所得税を、源泉徴収制度により会社が立て替え払いをしたのですから、不当利得返還請求(民法703条)という形で、従業員に対して源泉徴収分の支払いを請求できると思われます。

このような事態にならないように、会社は、裁判所の判断が出た場合には、速やかに支払いを行ったほうが良いでしょう。