残業代請求(経営者側)

1 そもそも残業を命じることができるか?

残業代どうこうの前に、そもそも残業を命じるためには36(サブロク)協定が必要だということはご存知でしょうか?
36協定とは、労働基準法36条に定められている従業員との協定のことです。
同条項で、残業や休日労働を命じるためには、従業員の過半数で組織する労働組合(ない場合は従業員の過半数を代表する者)との間で残業を命じることができる旨の合意をし、これを労働基準監督署に届け出ておく必要があります。

2 残業したことを証明する責任は従業員にあるけれど・・・

民事訴訟法上、自分の権利を主張する側が、その権利があることを証明する必要があるとの原則から、残業をしたことを証明する義務は労働者側にあるとするのが、現在の裁判例です。
もっとも、この点について明確に判示した最高裁判所判決はありません。

 しかし、この現在の裁判所の取り扱いには有力な反論があり、労働者側の立証責任を通常の民事訴訟における立証責任より軽減するべきだとか、会社側が残業していないことを証明すべきであるというものです。

このような主張も全く荒唐無稽なものではなく、会社は、従業員の労働時間把握義務を負う(労働基準法108条)とを理由としています。
ですから、今後裁判所が裁判例を変更し、民事訴訟法の原則を修正するということもまったくあり得ないことではありません。

会社としては、このような裁判例の変更にも対応できるように、日頃から従業員の労務管理はしっかりと行っておきましょう。

具体的な方法については、厚生労働省がガイドラインを作成しているので、こちらのガイドラインを参照してください。

3 どのような場合に残業代が発生するのか

具体的な行為が残業にあたるかなどについては、問題が多岐にわたるためコラムで順次取り上げていきますが、一般論として残業代が発生するのは従業員が会社の指揮命令下にあるといえる場合です。
ですから、たとえば、始業前の体操を義務づけられていたような場合、それは会社の指揮監督下において行われた行為なので、体操時間についても労働時間とみなされます。
逆に、従業員が遅刻しないように自主的に始業時間より早めに出勤していたような場合には、会社がそのように命じたわけではないので指揮監督下にあったとはいえず給与は発生しません。

4 従業員の残業代請求が認められそうな場合の対処

既にこれまでの労務管理に何らかの不備があり、従業員側の残業代請求が認められそうだという場合は、誠実に対応することが重要になります。
なぜなら、残業代請求には付加金という制度があるからです。
この制度は、企業側の対応が悪質な場合には、裁判所は未払い残業代の2倍の金額の支払いを命令できるというものです。
ですから、万が一、残業代を免れようとしてタイムカード改ざんするなどの行為を行い、それがバレたら残業代の2倍の金額を支払うことになります。
しかも、企業のイメージは大幅ダウンです。
ですから、どうも従業員の主張が認められそうだという場合は、誠実に対応し、多少なりとも減額してもらえないかという交渉をする方が得策でしょう。
従業員も労働審判や裁判をするとなると時間もかかりますし、弁護士費用もかかるため、少しくらいであれば譲歩しても良いかと考えるのが通常です。