残業代請求(従業員側)

1 残業代の基礎知識

⑴ 残業代が発生する場合

残業代は、契約上の労働時間を超えて働けば当然に発生します。

よく、1日8時間または週40時間を超える場合には残業代が発生すると書いてあるものを見かけますが、それは割り増し賃金が発生する場合です。

「または」なので、1日の労働時間が8時間を超えれば、週40時間を下回る場合でも、割増賃金となります。
たとえば、週3日しか働いていないけれども、1日の労働時間は10時間という場合は、2時間分については法定外の時間外労働として割り増し賃金を請求できます。
また、1日の労働時間が8時間以内でも、週40時間を超える場合は残業代が請求できます。
ですから、たとえば月~水曜は7時間、木金は6時間、土曜日に8時間働くと、いずれも1日8時間以内ですが、土曜日の7時間目で週40時間になってしまい、8時間目は割り増し賃金がつくということになります。

ですから、サービス残業で、まったく残業代がもらえていない場合はもちろん、残業代がもらえている場合でも割増賃金になっていない場合は、割り増し部分について未払い残業代として請求することができます。

⑵ 残業代の割り増し率

残業代などの割り増し賃金は、基本給に以下の割合を加えたものとなっています。

①時間外労働・・・・・・・・・・25%
②休日労働・・・・・・・・・・・35%
③深夜(22時~5時)労働・・・25%
① +③ ・・・・・・・・・・・・ 50%
① +③ ・・・・・・・・・・・・ 60%
*②は①を含むものであり、①+②の場合はありません。

⑶ 時効は2年

残業代などの未払い給料は、労働基準法105条によって時効期間が2年とされています(ちなみに退職金は5年)。
2年の基準日は、残業をしたときからで給料日ではありません。
ですから、毎日少しずつ時効で残業代請求権が減っていっているということになります。
そのため、残業代請求は早期に行う必要があります。

2年間で時効になるのですから、裏を返せば、すでにやめた会社であっても2年以内ならば残業代を請求できるということになります。
今いる会社とはトラブルを起こしたくないと考えている方も、退職後であれば請求しやすいのではないでしょうか。

⑷ よくある誤解

・管理職に残業代は支払われない?

最も多い誤解が「自分は管理職だから残業代が出ない」というものです。

たしかに労働基準法41条は、管理職について残業代等の規定を適用しないとしています。
しかし、労働基準法のさだめる「管理の地位にあるもの」は、一般的な意味での管理職(部長、課長)などとは異なり、経営者と一体的地位にあるといえるものをいいます。
そして、経営者と一体的地位にあるといえるかは、与えられた権限や職務内容、労働時間の自由度、賃金などを総合考慮して実質的に判断されます。
この基準からすれば、部長、課長クラスですと、労働基準法上の「管理の地位にあるもの」といえない場合がほとんどです。

ですから、「自分は管理職だから無理」と思っている方も、一度は相談にいらしてください。
もしかすると、残業代が請求できるかもしれません。

・みなし残業、固定残業代だから残業代が出ない?

「自分の会社は残業代がもともとの給料に含まれているから・・・」というのも多い誤解です。

固定残業代の定めがあっても、その残業代が法定の残業代に満たないものであれば、差額を請求することができます。

「そんなこと言ったって、どれが基本給で、どれが残業代かわからないよ」と思った方はいらっしゃいませんか?
基本給と残業代の区別がないこと自体が違法です。
その場合、残業代は1円ももらっていないという扱いになる可能性が高いのです。

ですから、「残業代は、もともとの給料に含まれている」という方も、それが十分な残業代か調べてみてください。
よくわからない場合は、ぜひ一度ご相談ください。

2 証拠は?

残業代を会社に請求する場合、請求する側が残業代が発生すること=時間外労働をしたことを証明する必要があります。

タイムカードがあればベストですが、退社前にタイムカードを押すように強要する会社や、そもそもタイムカードがないという会社もあると思います。
そのような会社にお勤めの方は、以下のようなものがないか探してみてください。

・業務日報などの会社に提出する報告書

・PCのログ(起動時間等の本体の記録)

・社内メールなど時間外に仕事をしていたことが分かるもの

・セキュリティの記録

・デジタルタコメーター、ドライブレコーダー、ナビのGPS記録など業務用車両の運行状況を示すもの

「残業代請求をしよう」と決めた後でないと難しいですが、退社時に会社の時計(社内だと分かるように背景込みで)を写真に撮ったりするなども有効でしょう。

なお、日記やメモ、自分の携帯電話から家族にあてた「今から帰る」などのメールは、証拠として非常に弱いので、これら単体で裁判で請求が認められることはないでしょう(古い裁判例だと認めているものもありますが)。
しかし、他の証拠と合わせて有効な証拠となることもありますし、交渉や労働審判の際の解決金を決める際の参考資料にはなるので、お持ちでしたら捨てずにとっておいてください。

3 解決までの流れ