固定残業代制の有効性と残業代請求権

1 固定残業代制とは

固定残業代制とは、最初から一定の残業をすることを前提として、給料に決まった残業代を加算して支払うことにしている制度です。

例えば、労働契約書に、「基本給20万円、残業手当5万円」「給与25万円(残業手当を含む)」などと書いている場合には、固定残業代制を採用していることになります。

2 固定残業代制の有効性

固定残業制については、労働法上の規定はありません。
しかし、個人間の契約については、契約自由の原則があるため、固定残業代契約も有効です。
もっとも、労働法や民法の規定・規定の趣旨に反する場合には、固定残業代が違法、無効となる場合があります。

では、具体的にどのようなものであれば、有効な固定残業代制なのでしょうか?
この点については、最高裁判所が、以下の要件を満たす場合にのみ固定残業代制を有効としています。

①残業代が、通常の労働に対する賃金部分と明確に区別されていること
②残業代が、実質的にも時間外労働に対する対価といえること
③残業代が、労働基準法所定の割増賃金額を上回っていること

こうしてみると、会社は、想定した残業時間より実際の残業時間が少ない場合でも、定められた残業代を支払わなければならず、想定した残業時間を超えた場合には、超えた分を支払わなければならないため、単純に法律的な観点からみればメリットがありません。

では、なぜ固定残業代を採用する会社が増えているのか?
それは、以下のようなメリットがあるからです。

①残業が常態化している会社においては、経済的マイナスは少なく、かつ、残業代計算が楽になること

② 労働効率がアップする
社員の立場で考えてみてください。
社員の立場で見れば、今までは残業をすればするほど給料がもらえました。
しかも、割増賃金になります。
ところが、固定残業代制にすると、残業をしてもしなくても給料は同じということになります。
そうだとすれば、残業なんかせずに早く帰りたいと思う従業員が多いでしょう。
そうすると、従業員が仕事を早く終わらせるよう工夫する→業務の効率化、となっていきます。
業務効率化によって、従業員に余裕が出ると、創造的な仕事ができるようになりますし、余った時間を利用して新しいプロジェクトを立ち上げたりすることができます。

③ 見かけの給与が高くなり、求職者の目に留まりやすくなります。

3 固定残業制における残業代請求

固定残業代制が上記の要件を満たさず、無効といえるような場合には、その名目上の残業代は、実質的には残業代ではないので、基本給と考えて残業代を請求していくことになります。

よくあるのが、基本給と残業代の区別が不明確というケースです。

また、固定残業代制が一応有効だけれども、想定残業代を上回る残業があり、その分が支払われていないというような場合には、その上回った部分について残業代を請求することも可能です。

参考裁判例

大阪地方裁判所平成14年5月17日判決(創栄コンサルタント事件)

裁判所は、「基本給に時間外割増賃金等を含むとの合意があり、使用者が本来の基本給部分と時間外割増賃金等とを特に区別することなくこれらを一体として支払っていても、労働基準法37条の趣旨は、割増賃金の支払を確実に使用者に支払わせることによって超過労働を制限することにある」とし、「基本給に含まれる割増賃金部分が結果において法定の額を下回らない場合においては、これを同法に違反するとまでいうことはできないが、割増賃金部分が法定の額を下回っているか否かが具体的に後から計算によって確認できないような方法による賃金の支払方法は、同法同条に違反するものとして、無効と解するのが相当である。」としています。