遺留分に関する民法1044条後段(旧1030条後段)は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与は、それがいつされたものであるかに関係なく、遺留分計算のときに相続財産に戻して計算すると定めています。
他方で、民法162条は、長年自分の物として使っていた場合には、時効によってその権利を取得するという定めています。
そこで、遺留分を侵害するような贈与を受けた者が、贈与された物を長年使っていた場合に、時効だから遺留分計算時に戻す必要はなく、遺留分侵害相当額を支払う必要もないと主張できるでしょうか?
遺留分に関する1044条と、時効に関する162条の優先関係が問題になります。
この点について、最高裁判所平成11年6月24日判決は、取得時効よりも遺留分減殺請求が優先すると判断しました。
つまり、贈与された物が遺留分を侵害するような高額なものだと知っていた場合には、たとえ何年その物を自分の物として使っていたとしても、遺留分減殺請求を主張された場合には、その物の価値を相続財産に戻して計算しなければならないということになります。
そのように考える理由として、最高裁は以下の2つをあげています。
① 民法は遺留分減殺請求によって法的安定が害されることに対して一定の配慮をしながら、遺留分減殺請求の対象としての要件を満たす贈与については、それが減殺請求の何年前にされたものであるかを問わず減殺請求の対象としている。
② 仮に取得時効を優先するとすると、遺留分を侵害する贈与がされてから、被相続人が死亡するまでに時効期間が経過した場合には、遺留分権利者は、取得時効を中断する法的手段がないまま、遺留分に相当する権利を取得できない結果となる。