遺言書の中には、「●●については、××に相続させる」などと、具体的に財産を特定して、それを誰に相続させるかが記載されていることがあります。
この書き方の遺言書の場合、書き漏らしている相続財産があることが、しばしばあります。
話し合いで解決できれば、それで構いませんが、話し合いがまとまらない場合は、この遺言書に記載のない相続財産は、どのように分けることになるのでしょうか?
実は、この遺言書に記載のない相続財産については、預貯金などのプラスの財産か、借金などのマイナスの財産かで取り扱いが変わります。
1 プラスの財産の書き漏らしがる場合
預貯金や不動産などプラスの財産で遺言書に記載のない財産がある場合は、その財産については、被相続人(亡くなった方)は、何も決めなかったと解釈し、遺言によっては決めることができないため、法定相続分通りに分けるのが原則となります。
たとえば、Aさんの相続人は、2人の息子だとします。
遺言書には、「甲銀行の預金1000万円は長男に相続させる。乙銀行の預金500万円は二男に相続させる。」と書いてあるだけでしたが、丙銀行にも200万円の預金がありました。
この場合、丙銀行の200万円については、法定相続割合に従って、長男が100万円、二男が100万円を相続します。
遺言で決まっている財産の相続割合が長男と二男で2:1だから、丙銀行の財産も2:1で分けるとか、遺言書では長男が贔屓されているから、遺言書に書いていない相続財産は二男に多めに配分して調整をするといったことはしません。
2 マイナスの財産の書き漏らしがある場合
借金などのマイナスの財産については、債権者との関係での負担割合と相続人間の負担割合で取り扱いが変わるので注意が必要です。
⑴ 債権者との関係
債権者との関係では、遺言書にどのように書いていようと、遺言書に書き漏らしていようと関係なく、各相続人は、法定相続割合に従ってマイナスの財産を負担します(民法902条の2)。
これは、遺言という債権者の関与しない行為で、債権者の権利が変動するのはおかしいという考えからです。
⑵ 相続人間の関係
相続人どうしの関係では、遺言書に書き漏らしたマイナス財産は、遺言書に書かれた相続割合に従って負担するのが原則となります。
プラスの財産と違いが出るのは、遺言をどのように解釈するかの違いです。
遺言については、「遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべき」とするのが判例です。
そして、「●●については、××に相続させる」という遺言の場合、判例は、民法908条にいう「遺産の分割の方法を定めた遺言」と解釈しています。
この遺産分割方法の指定については、遺言書で法定相続分とは異なる割合の指定がされている場合には、特段の事情のない限り、相続分の指定(民法902条)を伴うものと解釈されています。
したがって、遺言書で、相続分の指定があったのであるから、その指定に従って借金も分割するということになります(民法902条の2反対解釈)。
たとえば、Aさんの相続人として、2人の息子がおり、遺言書には、「甲銀行の預金1000万円は長男に相続させる。乙銀行の預金500万円は二男に相続させる。」と書いてあるだけでしたが、丙銀行に300万円の借金がありました。
このような場合、遺言書から、相続財産を長男と二男で2:1に分けろという趣旨だと読みとり、借金も2:1、すなわち、長男200万円、二男100万円で相続することになります。
⑶ ⑴と⑵の関係の調整
上記の例では、上記⑴のとおり、丙銀行との関係で長男は150万円の借金を相続し、二男も150万円の借金を相続します。
ですが、上記⑵のとおり、相続人間では、長男が200万円の借金を相続し、二男が100万円の借金を相続します。
この関係の調整が必要になります。
この場合、二男は、自分の負担割合より50万円多く丙銀行に支払いをしなければならなくなるので、50万円多く支払った二男は、その分を長男に請求できます。
これを求償(きゅうしょう)といいます。
【参考文献】
・新注釈民法(19)
・平成30年 司法試験 論文試験 民事系科目第1問設問3及び同出題の趣旨