1 寄与分と遺留分の優先関係は?
相続財産から寄与分を差引くと、他の相続人の相続割合が、寄与分を考慮しなかった場合の遺留分の金額より少なくなってしまうことがあります。
遺留分は、法定相続人に最低限度認められる相続分なので、寄与分は遺留分を侵害しない金額までという制限を受けるでしょうか?
この点については、寄与分が優先し、遺留分侵害を理由に寄与分を制限することはできません(1046条(旧1031条)参照)。
もっとも、裁判例では、寄与分を決めるにあたっては、遺留分が残された遺族の生活保障的性質も有することを考慮するべきであるとした裁判例もあり、実際には、元々の相続財産を基礎に算定した遺留分を侵害するような寄与分が認められることは少ないでしょう。
具体的に考えてみましょう。
亡くなった方(被相続人)Aさんには妻Bと子C、Dがいました。
Aさんは自営業者で、相続財産が2000万円がありました。
Aさんの自営業を手伝っていたのはCのみで、その寄与分は1200万円が相当であると認められました。
この場合、まず、相続財産から寄与分を差引き、その残りを分けることになるので。
2000万円-1200万円=800万円
Bは、2分の1の相続分があるので、800万円×1/2=400万円
Cは、4分の1の相続分があるので、800万円×1/4=200万円
さらに寄与分1200万円が認められるので、1400万円
Dは、4分の1の相続分があるので、800万円×1/4=200万円
となります。
配偶者であるBは、遺留分として相続財産の1/4(1000万円)をもらえるのが原則ですが、寄与分が優先するので、本事例では400万円しかもらえないということになります。
2 寄与分か遺贈かで遺留分との関係が変わる
遺留分減殺請求では、遺贈がある場合は、それを計算上相続財産に戻して遺留分を計算します。
たとえば、亡くなった方が、特定の相続人の貢献を考慮して遺贈をしていた場合、遺留分を計算する際に相続財産に戻して計算することになります。
しかし、遺言がなくて、寄与分として取り扱う場合は、遺留分より寄与分が優先することになります。
実質的には同じ趣旨なのに、遺贈か寄与分かで取扱いが異なってきますが、法律でそのようになっているのでやむを得ないのです。
では、誰かの貢献に報いたい場合は遺言を残さない方がいいのかというと、寄与分は必ず認められるものではなく、また、金額も不確定なものですから、そのリスクを考えると遺言を残しておいた方がいいでしょう。