本来なら相続人となる者が、相続人としての権利を奪われる場合として、相続欠格と推定相続人の廃除という制度がありますが、今回は、推定相続人の廃除について説明します。

相続欠格については、こちらの相続欠格のコラムをご覧ください。

1 推定相続人の廃除とは

推定相続人の廃除は、相続欠格と異なり、被相続人(亡くなった方)の意思により、一定の行為を行った遺留分を有する推定相続人(配偶者、子、直系尊属)の相続資格を剥奪する制度です。

法律が遺留分権者に限定したのは、遺留分を有しない者(兄弟姉妹)が相続人になりそうな場合には、遺言などで対応すれば済むからです。

2 推定相続人の廃除ができる場合

推定相続人の排除できるのは、以下の2つの事情がある場合に限定されています。

① 被相続人に対して虐待または重大な侮辱を加えたとき
② 推定相続人にその他の著しい非行があったとき

①もかなりあいまいですが、②がかなり抽象的な規定となっています。

具体的に、どういう場合が非行といえるかですが、たとえば、犯罪、遺棄、被相続人の財産の浪費・無断処分、不貞行為(浮気)、素行不良、行方不明などが上げられます。

これらは、推定相続人廃除が当該被相続人と相対的な関係で認められることから、被相続人が被害を受ける行為であることが原則です。

さらに、どの程度の虐待、侮辱、非行をどのように判断するかが問題となります。
この点、被相続人の主観的な面を重視して判断した裁判例と、客観的かつ社会通念に照らして判断すべきとした裁判例があり最高裁は統一的な見解を示していません。
ただし、裁判例はいずれも程度の差はあれ、被相続人の主観のみで判断しているものはないようです。
また、相続権を奪って良いような重大な被害がある場合のみ排除を認めています。

以下、相続人廃除に関する裁判例をいくつか紹介しておきます。

《排除を認めた事例》
・子が小学生のころから問題行動を繰り返し、中学・高校時には、家出や非行が見られ、少年院送致処分にもなり、18歳以降は、風俗産業に従事し、元暴力団員と親密になり結婚し、しかも、結婚に反対する親の名前を勝手に使い招待状を送るなどした事案
・子が、多額の商品購入代金の支払いや、会社の使い込みの弁償を父親にさせ、父母が意見をすると暴力を振るい、その後、行方不明になった事案(ただし、未成年時の行為は排除事由にあたらず、成人後の行為を問題としている)。
・子が、父親の財産をギャンブルのために使い込み、自宅を売却せざるを得ない状況にし、父親を経営する会社の取締役を解任されたことの腹いせに契約書を偽造して民事紛争を引き起こした事例

《排除を認めなかった事例》
・職を転々とし、甥の名義で280万の借金をしている事例
・父が代表取締役の会社に勤務し、会社のお金5億円以上を横領した事例(会社の損害であって父の損がではないと認定)

3 推定相続人廃除の手続

推定相続人の廃除は、被相続人が排除を求める必要があります。

この排除を求める時期について、①被相続人の生前に排除を求める方法と、②遺言で排除を求める方法があります。

① 被相続人の生前に排除を求める手続

被相続人が生きている間に、被相続人の住所を管轄する家庭裁判所に、推定相続人の廃除を求める審判を申立てる方法です。

裁判所は、排除対象者の意見も聞いた上で廃除理由があるかどうか判断することになります。

② 遺言で排除を求める手続

遺言に、特定の相続人を廃除して欲しいと記載する方法で行われる排除手続です。被相続人死亡後に、遺言執行者が家庭裁判所に推定相続人の廃除を求める審判を申立てます。

この方法は、同居の親族に虐待されている場合など、生きている間は排除の申し立てをしづらい場合に利用されます。

4 推定相続人廃除の効果

推定相続人の廃除が行われると、その相続に関しては、相続人の資格が剥奪されます。

ただし、相続人の資格の剥奪は、相対的なもので、他の人の相続においては相続人として認められることもあります。

また、当該人物が相続できないだけで、排除対象者の子供が当該相続人に代わって相続する(代襲相続)ことは可能です。

これらの点は、相続欠格と同じですが、1点だけ相続欠格と異なるのは、排除対象者に対する遺贈(遺言による贈与)がある場合は、遺贈の効果が有効で、排除対象者も遺贈を受けられる(受遺者となれる)ことです。
このような違いが生じるのは、相続欠格が法律上当然に相続人資格を失うのに対し、推定相続人の廃除が被相続人の意思に基づくものであることから、被相続人が特定の財産のみ受け取ることを希望する場合には、それを尊重して差し支えないからです。

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