離婚した妻が、元夫を相手として、亡くなった子供の分骨請求をしたのに対して、これを否定した事例として、大阪高等裁判所平成30年1月30日決定をご紹介します。
なお、本事例では、首位的に遺骨の引渡しを求め、予備的に分骨を請求しているので、遺骨の引渡しについては、こちら「遺骨の引渡しを求めるには?」のコラムでも書きましたが、改めて簡単にご紹介します。
1 事案の概要
・1971年、AとBが結婚、3人の子をもうけたが、長男が10歳で死亡した。
長男死亡時は、Bが喪主として葬儀を執り行い、Bが墓地使用者として市に墓地を借りて墓を作り長男の遺骨を埋葬した。
・1995年、AとBが離婚、調停にて「墓地はBが管理し、Aは随時墓参すること」という合意が成立した。
・2015年4月、Bは、B自身の死後に、長男の墓が無縁仏となることを懸念して、B実家の先祖代々の墓がある敷地内に、新たな墓を建てて長男の遺骨を移動した。
・2015年5月、Aが長男の遺骨が移動されたことを知る。
・2015年10月、Aが、新しい墓は遠方で墓参りが困難であることを理由に分骨を求める訴訟を提起したが棄却される(分骨を認めないという判決)。
・2017年2月、Aが改めて、Bを相手方として、首位的に長男の祭祀承継者をAとする処分を求め、予備的に分骨とその引渡しを求める訴訟を大阪家裁堺支部に起こした。
*首位的請求とは、一番の目的となる請求です。
首位的請求が認められると、予備的請求は判断されません。
予備的請求は、もし首位的請求が認められない場合には、これを請求しますという請求です。
・2017年10月26日 大阪家裁堺支部は、Aの請求をいずれも認めなかった。
この大阪家裁堺支部の判決に対して抗告したのが本件である。
2 大阪高裁の判断
⑴ 祭祀承継者をAとせよとの請求について
まず、遺骨は、民法897条が定める祭祀に準じて取り扱うものとされています(最高裁平成元年7月18日判決)。
そして、897条1項は、祭祀について、「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。」としており、2項で、どうしても決まらないときは家庭裁判所が決めるとしています。
これを前提に、大阪高裁は、祭祀については離婚時の調停で決まっているとしました。
Aは、仮に決まっていても、Bは遺骨を勝手に移動するなどの行為を行っているから、祭祀主催者の適格性を失っているとも主張していました。
しかし、大阪高裁は、事前にAに連絡しなかったのは配慮を欠くとしながらも、離婚後20年以上没交渉であったこと、遺骨の移動には合理的理由があることから、Bが祭祀主催者としての適格性を失っているとはいえないとしました。
以上より、Aの請求は理由がないとして、抗告を棄却(原審のままとする判決)しました。
⑵ 分骨せよとの請求について
大阪高裁は、Aが、遺骨をB実家の墓の敷地に移動したことを、事実上Bが、Aや他の子らの墓参を拒んでいるといえると主張したのに対して、そのようなことを認める資料はない。
むしろ、先祖の墓と別に長男の墓を作っていることから、Aらに配慮しているといえる。
本件に先立つ訴訟で、Bが分骨を強く反対していた。
そういったことを考慮すると、「祭祀の対象となる本件遺骨の一部を抗告人に分属させなければならない特別の事情があるとはいえない。」としました。
以上より、Aの背請求は理由がないとして、抗告を棄却しました。
3 私見
遺骨を裁判上どのように取り扱うかについては、最高裁平成元年7月18日判決が、祭祀財産に準じて取り扱うとしています(こちらの遺骨の引き渡しに関するコラムもご覧ください)。
本判決は、この最高裁判決の考え方を前提に、祭祀の主催者がBであると認定し、そのBが遺骨も所有するとしました。
よく分からないのが分骨に関する判断です。
分骨すべき特別の事情がないとしていることからすれば、場合によっては分骨せよという判決にすることもあるように思えます。
しかし、原審である大阪家裁堺支部は、「同条項(民法897条2項)に基づき、本件遺骨の分骨手続及び当該分骨の引渡しを求めているが、同条項に基づいて分骨を請求できるとは解釈し難いから、申立人の請求は理由がない。」としており、この大阪高裁の決定は、原審のこの部分を修正していないようです。
そうすると、今回の大阪高裁決定のようにBがAの墓参を拒否する態度であったかどうかなどは検討する必要はないように思いますが、遺族への配慮でしょうか・・・?
なお、原審と同様に、分骨を求める法的な根拠がないことを理由に分骨を認めなかった裁判例として東京高等裁判所昭和62年10月8日判決というものがあります。
他方で、奈良家庭裁判所平成13年6月14日審判は、特別な事情がある場合には祭祀の分属を認めるとしています。
結論として、現時点では分骨や、祭祀財産の分属について裁判所の取扱いは固まっていないが、少なくとも簡単には認めていないといえそうです。