親族による生前の預貯金の使い込みは、相続のときどうなる?

1 被相続人死亡前の親族による預貯金の引き出し

死亡直前に多額の預金が引き出されていたという場合、どうすればいいでしょうか?

遺産分割の対象は、被相続人が相続開始時に所有し、分割時にも存在する、未分割の積極財産(プラスの財産)です。

勝手な引き出しについては、相続開始時には既になくなっているので、原則として遺産分割の対象にはなりません。

しかし、勝手に引き出した相続人以外の相続人全員が、勝手に引き出した金額を含めて解決することに同意した場合は、勝手に引き出したお金も遺産分割の対象となります(民法906条の2)

上記のような同意が得られない場合は、勝手に預金を引き出した行為が違法であるとして損害賠償請求をするか、不当に利益を得ているとして不当利得返還請求を別途行う必要があります。

この損害賠償請求、または、不当利得返還請求は、訴える者自身の相続分のみを請求することになります。

なお、相続人同士の話し合いや調停で、事実上、その引き出しについて考慮した上で遺産分割の合意をすることは問題ありません。

ここまでは、被相続人死亡後、遺産分割前の使い込みと同じ扱いです。

2 無断引き出しに争いがある場合①

ここで、預金を引き出したと思われる相続人が、「自分は全く知らない」と主張した場合には、相続財産について不明確な状態となり、一旦相続手続は中断されることになります。

もっとも、手続的には上記と同じで、預金を引き出したと思われる相続人を相手に損害賠償請求、または、不当利得返還請求をすることになります。

3 無断引き出しに争いがある場合②

⑴ では、勝手に引き出した者が、贈与を受けたんだと主張した場合はどうなるでしょうか。

この場合、調停や審判手続の中で贈与の事実が証明できれば、単なる特別受益の問題となりますが、そうでない場合は、遺産分割審判はそのまま進められ、贈与があったことを前提に特別受益を考慮した上で決定をします。

そして、別途、損害賠償請求、または、不当利得返還請求訴訟にて、贈与事実の有無について争うことになります。

ここで、贈与の有無について先に判断がされれば問題はありませんが、遺産分割審判が先になされ、かつ、損害賠償請求等が認められると、損害賠償請求をした者が多く遺産を取得するという結果になってしまいます。

⑵ 分かりにくいので、具体的に考えてみましょう。

被相続人A死亡時に預金が1000万円残っていました。
しかし、その1か月前から、子Bが毎日のように数十万ずつお金を引き出しており、その金額は合計1000万円になっていました。
Aにはもう一人子Cがおり、CがBに遺産の着服だと主張したところ、BがAから贈与を受けたのだと主張しました。

このケースで、遺産分割審判が先になされると、Bには1000万円の特別受益があったものとして、遺産総額2000万円、BとCの相続分は各1000万円、Bは既に1000万円を取得しているから、残る預金1000万円はCの者となります。

Cは、別途、Bによる預金引き出しについて、Bによる引き出し額のうち自分の相続割合相当額の500万円について、不当利得返還請求訴訟をおこしており、上記審判後に、Bは贈与を受けていないから500万円をCに返せという判決が出ました。

そうすると、先に出た1000万円の預金はCのものとするという審判と、後のBはCに500万円払えという判決の合計額1500万円をもらえることになります。

この結果について、理論上は、Bは、Cが250万円もらいすぎだとして、さらに別途250万円の不当利得返還請求を請求ができることになります。

もっとも、Bが預金を無断に引き出した状況や、その後の事情によっては、Bの行為は信義誠実の原則に反するものとしてBの請求が認められないこともあります。

なお、預貯金の引き出しが被相続人の死亡後の場合は、こちらの相続財産の処分に関するコラムをご覧ください。

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