4歳児の後遺症逸失利益について67歳までの定期金賠償とした判例

【事案の概要】

4歳の時に交通事故にあい、高次脳機能障害の後遺症が残った(自動車損害賠償保障法施行令別表第2第3級3号に該当し、労働能力を全部喪失)ため、両親が、運転手(民法709条)、車の所有者(自賠法3条)、保険会社(保険契約に基づき)を訴えました。

その際、後遺障害による逸失利益につき、両親が定期金による賠償を求めたことから、本件逸失利益が定期金による賠償の対象となるかと、事故後に被害者が死亡した場合の定期金の支払義務の終期が争われました。

なお、子供と運転手の過失割合は、2:8とされました。

【最高裁判決の概要】

上記事案について、最高裁第一小法廷令和2年7月9日決定は、概要、次のように判決しました。

・後遺障害で労働能力を喪失したことによる損害は、将来発生する損害ではあるけれども、不法行為の時に発生したものとして、その額を算定した上、将来分を含めた一括払いによる賠償を命ずることができる。

・定期金賠償について定めた民訴法117条の趣旨は、実態に即した賠償を実現するために定期金による賠償が認められる場合があることを前提として、そのような賠償を命じた確定判決の基礎となった事情について、裁判終了後に著しい変更が生じた場合には、事後的に判決時の予想と実際のかい離を是正し、現実化した損害の額に対応した損害賠償額とすることが公平に適うということにあると解される。

・不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補塡して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、また、損害の公平な分担を図ることをその理念とするところである。

・交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、上記目的及び理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は,定期金による賠償の対象となるものと解される。

・損害賠償が一括で支払われる場合は、仮に、その後に被害者が平均労働可能年齢より早く亡くなったとしても、原則として、死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきものではないから、定期金も一括払いと同様に交通事故の損害賠償なのであるから、交通事故の被害者が事故後に死亡したことにより、賠償義務の期間を短くすることは衡平の理念に反するから、就労可能期間の終期が被害者の死亡時となるものではないと解すべきである。

【コメント】

損害賠償は、一括で支払うのが原則ですが、後遺症が残る場合には、実際の損害は継続的に亡くなるまで生じます。

この将来に向けての損害の賠償を、一括で支払うのではなく、毎月(毎年)支払うことを定期金賠償といいます。

定期金賠償にする法的、経済的メリットは、大きく2つあります。

将来に予想以上に後遺症が悪化した場合やインフレ化が進んだ場合などに、その状況に合わせて損害賠償金の変更が認められることと、中間利息が控除されないことです。

中間利息の控除とは、一括で支払いをしてもらう場合に、早く払う分の割引がされることをいいます。
なぜ割引をされるかについては、今の金銭価値と未来の金銭価値は同じではないからです。
たとえば、今100万円あれば、これを銀行に預けて利息を得ることができます。
これを逆に考えて、将来の損害賠償金を今貰うのだから割引ますというのが中間利息の控除です。

定期金賠償の場合は、この早くもらうというメリットがない代わりに、損害賠償額を満額もらえます。

加害者側の視点からすると、事件がいつまでも解決しないというデメリットがあります。

被害者側にとっても、加害者が保険に未加入の場合は、加害者個人で負担することになるので、継続的に加害者と関係を持たなければならず、かつ、取りっぱぐれやすいというデメリットもあります。

このような定期金賠償が認められることは滅多にありませんが、非常に重い後遺症害を負い、かつ、被害者が若い場合は、定期金賠償とされることがあります。

本件は、被害者が4歳と幼く、かつ、労働能力を100%消失するような重い後遺障害のため認められました。

本件で、もう一つ重要な論点は、定期金賠償は、いったいいつまで支払えば良いのかという点です。

被害者は、現実には重い後遺障害を負っているので、被害者がいつまで働けたかは、統計情報の平均をとらざるを得ません。

現在では、67歳まで労働が可能とされているので、67歳までが定期金賠償の期限となります。

では、被害者が67歳までに亡くなった場合はどうなるのかですが、本判決では、それは考慮せず、生きていたら67歳になるまで支払えという判決になっています。

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