遺留分減殺請求権が例外的に認められないケース

遺留分(民法1042条(旧1028条)以下)は、相続人に最低限認められる権利ですから、遺留分の支払いを要求(遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)といいます)すれば認められるのが原則です。
ですが、ごくまれに遺留分減殺請求が権利濫用(けんりらんよう)であるとして認められない場合があります。

どのような場合が権利濫用となるかについて、推定相続人の廃除請求をしていれば認められたであろうと考えられる事情、あるいは、それに相当する重大な事由があるときとする裁判例があります。
どのようなケースが推定相続人の廃除事由に相当する重大な事由といえるかは、ケースバイケースで一般的な基準を化するのは難しいので、以下、遺留分減殺請求が認められなかった事例をご紹介します。

・仙台高等裁判所秋田支部昭和36年9月25日判決
養子が、家業である農業を怠りがちで、養親との関係が悪くなり、その後、経済不況など困窮した養親の家を養家の財産はいらないと言って出ていき、以後、養父母を扶養しなかったことはもちろん、一切連絡も取らず、葬儀にも参列しなかった。
養子が出て行ったあと、養父の面倒を見てくれた実質的に養子といえる親族に対して、養父が行った贈与について、養子が遺留分減殺請求をした。
裁判所は、養子の行為は、養親子関係を破壊する不信行為であり、養家を出る際に一切財産はいらないと言っており、かつ、現在の財産は、困窮後に実質的養子といえる人物による立て直しにより築いた財産であるとして、養子からの遺留分減殺請求について、権利濫用にあたるとして認めなかった。

・東京高等裁判所平成4年2月24日判決
被控訴人は、被相続人である母親の生前、母親の土地を母親と21年間同居していた控訴人に取得させる合意をしていたが、実際に母親が亡くなると遺留分減殺請求を行使した。
裁判所は、被控訴人の土地を控訴人に取得させるとの合意は、相続放棄の意思といえる。それの意思表示は、母親の生前の意思表示であるから、家庭裁判所による許可審判が必要であるところ、その手続きがなされていないが、仮に許可審判の申立てがあれば認められていたといえる。
そのような状況で、被控訴人の遺留分減殺請求が認められると、価格弁償をする財力がない控訴人は、本件不動産を売却せざるを得ず、予想しない多大な損害を被ることになる。
このような状況で被控訴人が遺留分を請求することは権利濫用として認められないとしました。

・東京地裁平成11年8月27日判決
別件での裁判での和解の際に遺留分を放棄をすることを約束したのに、遺留分の事前放棄手続を行わなかった。
その後、被相続人が死亡すると遺留分減殺請求をした。
裁判所は、別訴での裁判上の和解を家庭裁判所の許可審判に代えることはできないが、そのような裁判上の和解をしたにもかかわらず遺留分減殺請求をすることは、著しく信義則に違反するもので許されないとしました。

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