自筆証書遺言の作成場面がビデオ撮影されたが遺言が無効とされた事例

自筆証書遺言(自分で書いた遺言)も遺言として有効ですが、その有効性について争われることが多くあります。
今回ご紹介する東京高等裁判所平成29年3月22日判決は、遺言で全ての財産を相続することになる相続人が、その自筆証書遺言の有効性を証明しようとして、遺言作成状況をビデオ撮影していたけれども、裁判所が、遺言は無効であるとした事例です。

1 事案の概要

平成24年4月19日に、被相続人(亡くなった方)は、原告に全ての財産を相続させるとの公正証書遺言を作成しました。
平成25年2月8日付で、被相続人作成とされる、被告に全ての財産を相続させるとの自筆証書遺言が存在ししました。
これについて、原告が、被告にすべての財産を相続させるとした自筆証書遺言は、被告による偽造であって無効だとして訴えを起こしました(遺言無効確認請求訴訟)。
第一審の東京地方裁判所は、自筆証書遺言は有効であるとして、原告の請求を棄却しました。
これに対して、原告が控訴したのが本件です。

2 東京高裁の判断

結論から記載すると、東京高裁は、自筆証書遺言を無効としました。

理由としては、主に以下の点を上げています。
・平成25年2月8日時点ではアルツハイマーが相当進んでいた。
・録画に新聞を写すなど、遺言が有効となるように証拠を残すことを意識して作成されているのに、署名押印の部分の録画がないのが不自然である。
・録画とは別に録音があるが、棒読みで、何かを読まされているよう。
・印鑑が、実印でも銀行印でもなく、本当に被相続人のものか分からない。
・検認を受けた際の封筒が、録画に写っている封筒と異なるのが不自然である。
・1年も経たないうちに公正証書遺言と正反対の遺言を書いているが、そのような遺言を書くに至った事情が不明である。
なお、被告は、被相続人が、「被告が一株ももらえないのはかわいそう」と言っていたとするが、全ての財産を被告に相続させる理由とはならない。

3 私見

まず、前提として、本判決の平成29年時点では、自筆証書遺言は、内容、日付、署名を被相続人自身が自分で書く必要があります(2018年改正(施行日は3年以内)で本文はワープロ打でもよくなりました)。

そのため、本件では、アルツハイマーだった被相続人が、内容を理解して、全て手書きで書いて、署名押印までしたのかが争われました。

このような裁判の場合、本人の作成によるものかどうか直接証明することは困難なので、間接的な事実から認定していくことになり、本裁判でも具体的な事情を細かく認定して判断しています。

本事例の珍しい点は、自筆証書遺言の作成過程が録画されていた点です。

この点について、原告は、そもそも証拠能力がないのではないか、証拠能力があったとしても実質的証拠力は低いのではないかが争われました。

なお、証拠能力とは、そもそも証拠として認められるかどうか、実質的証拠力とは、目的とする事実を証明する力がどの程度あるか、言い換えると証明すべき事実と証拠とがどの程度関連性があるかです。

このうち、証拠能力について、裁判所は、被告が裁判所や原告を欺罔(ぎもう=だます)する目的で作成、加工、編集したという事情はないとして、証拠能力を認めました。

そして、実質的証拠力については、諸般の事情を総合考慮して判断するとし、上記のとおり、自筆証書遺言が有効であることを証明するための証拠としては不十分であると判断し、遺言は無効としました。

面白いのは、原審である東京地裁は、ほぼ同じような事実関係を認定しておきながら、正反対の結論にしている点です。

ちなみに、東京地裁の判決は以下のように書いています。
・印鑑が実印でも銀行印でもないが、問題はない
・署名押印部分の録画がないが、問題はない
・1年弱前の公正証書遺言と正反対の遺言を書いているのは、被相続人が「被告が一株ももらえないのはかわいそう」と言っていたことで説明がつく
・録画時と検認時で封筒が違っているが、それの何が問題なのか

私には、東京高裁の方が一般常識に合致するように思いますが、同じ事実でも、評価の仕方は、裁判官によって正反対になってしまうことがあるという事例でもあります。

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