残された配偶者に一定の条件の下で自宅に住み続けることを認める配偶者居住権という制度が、2018年7月6日の民法改正により設けられました(施行日は2020年4月1日)。
今回は、この配偶者居住権について説明します。
なお、単なる配偶者居住権とは別に、とりあえず居住を認める短期配偶者居住権という制度が別に設けられています。
1 配偶者居住権とは
配偶者居住権とは、被相続人(亡くなった方)の所有であった建物に、相続開始時(亡くなった時)に住んでいた配偶者は、遺産分割で配偶者居住権を取得するとされたとき、または、配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき、その建物全部を無償で使用できる権利を取得する、という制度です(民法1028条)。
配偶者のみに特別に認められる権利ですから、当然、配偶者居住権を第三者に譲渡するということはできません。
なお、被相続人の所有であった建物とは、被相続人の単独所有である必要があり、共有であった場合は、配偶者居住権は生じません。
また、配偶者居住権は相続財産として扱われるのが原則ですが、婚姻関係が20年以上続いていた夫婦において、贈与(遺贈を含む)によって配偶者居住権を得た場合は、配偶者居住権を得たことによる利益は、相続財産には含めず遺産分割がなされます。
2 配偶者居住権について争いになたときは?
相続人どうしで争いになり、調停でも合意に至らない場合は、審判という手続で裁判所が判断します。
そうはいっても、裁判所が配偶者居住権を認めて良い場合は、以下の二つに限定されています(民法1029条)。
① 共同相続人間で配偶者居住権の合意があるとき
② ①以外の場合で、生存配偶者が配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために、とくに必要があると認めるとき
3 いつまで住んでいい?
配偶者居住権は、配偶者が亡くなるまでが原則となります。
ただし、遺言や遺産分割協議、裁判所の審判で、もっと短い期間を定めることも可能です(民法1030条)。
また、期間内であっても、配偶者が、用法遵守義務や善管注意義務に違反をした場合には、所有者は、配偶者に対する意思表示によって、配偶者居住権を消滅させることができます。
なお、明け渡し時には、配偶者は原状回復義務を負います。
4 配偶者居住権を持つ者の権利と義務
⑴ 登記請求権
配偶者居住権を持つ者は、配偶者居住権を登記するよう他の相続人らに請求する権利があります(民法1031条1項)。
⑵ 妨害排除等請求権
配偶者居住権を持つ者は、他の者が家に居座っているような場合に、これを排除する権利があります(妨害停止請求権、妨害排除請求権 民法1031条2項・605条の4)。
⑶ 用法遵守義務、善管注意義務
配偶者は、これまでと同じように建物を使用しなければならず、かつ、善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)を負います。
善管注意義務というと難しく聞こえますが、要するに、責任を持って丁寧に扱ってねという程度で考えておけば良いでしょう。
なお、これまでと同じようにというのは取扱い方法についてであって、配偶者居住権は建物全部を使用できるので、従来はリビング・ダイニングと寝室しか使用していなかったという場合でも、全ての部屋を使用できます。
⑷ 建物の修繕
配偶者居住権は、その建物に住むために必要な範囲で、所有者の承諾がなくても修繕をすることができます。
配偶者が修繕をしないときには、所有者が修繕をすることも認められています。
建物が修繕を要するのに配偶者が修繕をしない場合は、配偶者は、修繕を要する状態であること、配偶者自身で修繕をしないことを所有者に伝える義務があります。
⑸ 増改築
配偶者居住権は、あくまでも住む権利があるに過ぎないので、修繕のレベルを超えた増改築にあたる行為については、建物の所有者の同意を得なければできません。
⑹ 第三者を住まわせること
配偶者居住権は、残された配偶者を保護する制度ですから、配偶者は無償で住むことが可能ですが、それ以外の者を住まわせるには、所有者の承諾が必要となります。
⑺ 費用の負担
配偶者は、無償で建物を使用できる代わりに、通常の必要費は、配偶者の負担となります。
通常の必要費とは、固定資産税や、通常の修繕費です。
災害等による損傷部分の修繕や有益費については、価格が現存する場合に限り、所有者の選択にしたがって、支出した額または価値増加額を所有者に請求できます。
なお、有益費とは、社会的に見て価値が上がる改修をいいます(リノベーション代など)。
5 配偶者居住権と第三者との関係
上記4⑴のとおり、配偶者居住権を持つ者は、それを登記することができるため、第三者(たとえば不動産を担保とっている金融機関)との関係で、どちらが優先するのか争いになった場合には、登記を先にしたほうが優先することになります。
6 遺産分割における配偶者居住権の金銭的評価
配偶者居住権が認められる場合には、建物所有者は、その家を使えなくなる反面、配偶者は無償で使えるようになるので、遺産分割において、これを考慮する必要があります。
具体的に、配偶者居住権をいくらと考えるのか、新しくできたばかりの法律であるため、はっきりしない部分がありますが、以下の計算式が提案されています。
もっとも、以下の計算式に拘束されるわけではなく、争いになった場合は不動産鑑定士による鑑定に基づき裁判所が判断します。
①配偶者居住権付所有権の価額=固定資産税評価額×{法定耐用年数-(経過年数+存続年数)÷(法定耐用年数-経過年数)×ライプニッツ係数}
②配偶者居住権の価格=固定資産税評価額-配偶者居住権付所有権の価額
③建物の価額(固定資産評価額)=配偶者居住権付所有権の価額+配偶者居住権の価額