譲渡制限株式の買取り請求の方法と金額の決め方

「譲渡制限株式があるので会社に買い取ってほしい」、「譲渡制限株式を知人に売ろうとしたら会社に拒否された」、そんな相談を受けることがあります。

原則として、株式を会社に買い取ってもらうことはできませんが、例外的に会社に譲渡制限株式の買取を請求することができます。
それは、あなたが誰かに株を譲ろうとしたのに、会社が譲渡を認めなかった場合です。
既に会社に譲渡を拒否された方は、あとは会社に買取を請求するだけです。
まだ誰かに譲るあてがない方は、なるべく会社の経営陣が嫌がりそうな人に株を譲るふりをする必要があります。

なお、当事者間では既に売買が成立しているのに会社が譲渡を認めなかった場合、買った方も会社に買い取りを請求出来ます。

以下、具体的に手続を説明します。

1 株式の譲渡承認請求

上記のとおり、会社に株式を買い取ってもらうためには、会社に誰かに売ることを拒否してもらわないといけません。
ですから、最初にすることは、誰か売る相手を見つけることです。
そのあと、会社に譲渡承認請求をする必要があります(会社法136条、137条1項・2項)。
「譲渡承認請求」は、法律上は売り主も買い主もできますが、買い主が請求する場合は、一部の例外を除き株式名簿に記載されたもの(通常は売り主)と共同でしなければならないことになっています。
わざわざ共同でする意味はないので、実質的には売主がするということになります。

譲渡承認請求をする際には、以下のことをのことを明確にして請求する必要があります。

・譲渡しようとする株式の種類、数
・買い主の氏名
・「譲渡承認請求」を拒否する場合は、会社又は指定買取人が買い取るように請求すること

弁護士に依頼せず、ご本人が手続きした案件で、上記3番目の買い取り請求の記載がない「譲渡承認請求」通知を見たことがあります。
その場合、会社から譲渡承認拒否の通知が来ると、それで手続が終わってしまうので気をつけてください。

2 会社の譲渡承認請求に対する判断

会社は、「譲渡承認請求」を受け取ると、その日から2週間以内に承認するか拒否するかの回答をする必要があります(会社法139条2項)。
回答をしなかった場合には、譲渡が承認されたものとみなされます(会社法145条1号)。

「譲渡承認請求」に対する、承認又は拒否の決定は、取締役会決議で行います(会社法139条1項)。
取締役会を設置していない会社は、株主総会で決議する必要があります。

3 会社または会社指定買取人による買い取り

会社は、「譲渡承認請求」を拒否する場合、会社が株を買い取るか、会社が買い取ってくれる人を探さないといけません。
後者の会社に買い取るようお願いされた人を「指定買取人」といいます。
会社が買い取る場合と、指定買取人が買い取る場合で、若干手続が違うため、以下では場合分けして説明します。

①会社による買い取り

会社が株を買い取ることは、株主総会の特別決議で決める必要があります(会社法140条1項・2項、309条2項1号)
このとき、株式の種類と数を明確にして決議を受ける必要があります。

会社が株を買い取ることが決まったら、「一株当たりの純資産額」に対象株式数をかけた金額を、会社の本店所在地の供託所で供託します(会社法141条2項)。

「一株当たりの純資産額」については、法令により以下のとおり計算方法が決まっています。
会社側の方は以下の計算式により正確に金額を算出してください。買い取りを請求する側の立場の方は読み飛ばして次の段落に進んでいただいても結構です。

一株当たりの純資産額=(基準純資産額÷基準株式数)×一株当たり純資産額を算定すべき株式についての株式係数

*基準純資産額=資本金の額+基本準備金の額+利益準備金の額+会社法446条に規定する剰余金の額+最終事業年度において純資産の部に計上した額から株主資本及び新株予約権に係る額を差引いた額+新株予約権の帳簿価格-自己株式及び自己新株予約権の帳簿価格
*基準株式数=発行済み株式数(ただし、種類株を発行している場合には、種類株ごとに株式係数をかける)
*株式係数は、原則として1(ただし、定款で種類株ごとに異なる係数を定めた場合には、その係数)

次に、株を会社が買い取ることを、譲渡承認請求を拒否すると通知した日から40日以内に、会社による買取について譲渡承認請求者に通知しなければなりません(会社法141条1項、145条2号)。
このとき、上記の供託したことの証明書を同封する必要があります。
なお、40日を過ぎると、株式の譲渡を承認したものとみなされます。

②指定買取人による買い取り

会社が株を買い取る人を見つけてきて、その人に買い取ってもらう場合(会社法140条4項)は、そのことを取締役会決議で決める必要があります(会社法140条5項・309条2項1号)。
取締役会設置会社でない場合は、株主総会の特別決議で決める必要があります。

指定買取人が決まったら、指定買取人は、「一株当たりの純資産額」に対象株式数をかけた金額を、会社の本店所在地の供託所で供託します(会社法141条2項)。

「一株当たりの純資産額」については、上記会社が買い取る場合と同じですが、もう一度書いておきます。

一株当たりの純資産額=(基準純資産額÷基準株式数)×一株当たり純資産額を算定すべき株式についての株式係数

*基準純資産額=資本金の額+基本準備金の額+利益準備金の額+会社法446条に規定する剰余金の額+最終事業年度において純資産の部に計上した額から株主資本及び新株予約権に係る額を差引いた額+新株予約権の帳簿価格-自己株式及び自己新株予約権の帳簿価格
*基準株式数=発行済み株式数(ただし、種類株を発行している場合には、種類株ごとに株式係数をかける)
*株式係数は、原則として1(ただし、定款で種類株ごとに異なる係数を定めた場合には、その係数)

次に、指定買取人は、譲渡承認請求を拒否すると通知した日から10日以内に、譲渡証人請求者に買取を通知しなければなりません(142条1項、145条3号、会社法施行規則26条2号)。
このとき、上記の供託したことの証明書を同封する必要があります。
10日以内に通知をしないと、譲渡が承認されたものとみなされます。

4 株式の供託

会社が株券を発行している場合(最近は非常に少ないでしょう)、会社または指定買取人から、譲渡請求権者は、株式を買い取る旨の通知が届いてから1週間以内に、株券を供託し、供託したことを会社に通知しなければなりません。
指定買取人が買い取るときでも、通知は会社宛なので注意してください。
この通知をしないと、会社又は指定買取人は、買い取りをなかったことにできます(会社法141条4項、142条4項)

5 価格の決め方

ここまでの手続が終わると、買い取り価格を決めることになります。
買い取り価格は、原則として話し合いで決めなさいということになっています(会社法144条1項)。
しかし、話し合いで決まることはあまりないのではないかと思います。

話し合いがまとまりそうにない場合、会社または指定買取人が買い取る旨の通知をしてから20日以内に裁判所に「株式売買価格決定の申立」という手続を行います。
この申立は、譲渡請求権者からでも会社または指定買取人からでもできますが、通常は譲渡請求権者が行います。
この申立をせずに20日が経過した場合、純資産額を株式数で割った金額が買取り額となります。
この場合、譲渡請求権者は、供託金を代金として受け取れますが、会社または指定買取人に協議が整わなかったことの証明書を出してもらうことが必要になります。
そして、会社または指定買取人が協力してくれない場合は、協議が整わなかったことの確認を求める裁判をしないといけなくなります
ですから、会社との話し合いがスムーズにいかない場合、会社が確認書類を作成してくれない可能性があるので価格決定の申立をした方がいいでしょう。

6 具体的な価格

裁判所に「株式売買価格決定の申立」をすると、裁判所が価格を決めることになります。
裁判所が価格を決めるときの基準ですが、確立した裁判例はありません
判例集に載っている裁判例では、以下のような算定方法を様々な割合で組み合わせて算定していますが、実際には、公認会計士の中から鑑定人を選任し、その鑑定人が算定した価格を適正価格として和解を促すことがが多いのではないかと思います。
なお、慣れていない弁護士さんだと、相続税を付加する際の基準を主張される方がいらっしゃいますが、相続時の価格を基準としている裁判例は当職の知る限りありません。

主な未公開株の株価算定方式

① 純資産方式
会社の純資産を株式数で割ったものが株式の価格であるという考え方です。
単純に簿価を純資産と考えるのか、実勢価格に修正するのか、修正する場合どのような方法を使うのかで、さらに様々な計算方法に別れます。

② 収益方式
会社の収益を基準に株価を算定しようという考え方です。
会社の収益は、キャッシュフローを基礎に算定します。
収益方式は、キャッシュフローに関する考え方の違いで、大きく「収益還元方式」と「DCF法」といわれるものに別れます。

③ 配当還元方式
配当還元方式は、将来の株式配当を基準に株価を決定しようという考え方です。

④ 批准方式
同業他社などとの比較で株価を算定しようという考え方です。

これらの算定方式については、公認会計士さんに尋ねた方が、より正確で詳しく説明してくれると思いますので、概要だけにとどめておきます。

7 価格が決まったら

和解ができない場合は、判決が下されます。

判決が下されると、通常の民事訴訟と同じように2週間の控訴期間があります。
2週間以内に控訴をしないと判決が確定するので、相手が任意に支払わない場合は、相手の財産の差押え等の強制執行ができます。